独立後のデビュー作となった9戸の小規模なまちづくり「修景の街」はとても好評で、事業主である不動産デベロッパーS社から引き続き別の場所でのプロジェクトを手がけてほしいと言ってくださり、他社からもいくつか問い合わせが入るようになりました。
関西のメディアで取り上げられて他の不動産デベロッパーの偵察部隊も現地のモデルハウスによく訪れていたのですが、コンセプトを明確にして、考え方に賛同してくださる戸建てコーポラティブハウスのような「コンセプト住宅」ができる事で、そこに暮らす方々だけでなく、周辺住民の方々もプロジェクトを喜んでくださり、事業主である不動産デベロッパーも潤うので、皆がハッピーになれるのです。
デザイナーとしてはこんなに喜ばしい事はありません。
同業他社がこのような事例をパクって他でも同様なプロジェクトが成功するようになるなら、バナナの叩き売りのような建売住宅が少しでもマシな環境になっていくので、私にとっても社会にとっても喜ばしい事なので、「どうぞどうぞパクリまくってください」とモデルハウスに来た偵察部隊に言っていたほどです。
クライアントの「修景の街」の担当者は苦笑いしていましたけど…(笑)
↓ コーポラティブハウス
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B3%E3%83%BC%E3%83%9D%E3%83%A9%E3%83%86%E3%82%A3%E3%83%96%E3%83%8F%E3%82%A6%E3%82%B9
売りにくい場所を売れるようにしたと言う実績を残した訳ですが、事業主である不動産デベロッパーが売りにくいと思い込んでいるだけで、実はそうではない事が多くあるものです。
例えば、売れないプロダクトや商品のネーミングやパッケージを変えただけで売れる事がよくありますよね。
商品はそのままなのに、切り口や魅せ方を変えるだけで売れていく、それはマーケティングやプロモーションなど、販売戦略に問題があった訳で、不動産業界にもそのような事があります。
不動産会社のマーケティングというのは、広告代理店やマーケティング会社が当該エリア周辺の不動産情報を掻き集めてレポートを提出します。
それは過去から現在までのデータで、未来予測のデータが示される事はありません。
過去の成功体験を基に商品企画をし、販売戦略を練るのが一般的と言えるでしょう。
私の場合は建築デザイナー目線で同様のマーケティングリサーチをしますが、そこから得られた情報では、肌感覚的に不動産会社や広告代理店、マーケティング会社とは異なるのです。
もちろん購買層のデータが大きく異なる訳ではありませんが、首都圏の売りやすい建売住宅と違って、地方では頭をひねって戦略を練らないと売れないので、需要の掘り起こしをしなければなりません。
需要の掘り起こしについてはやり方がいくつかあると思いますが、私の場合は「コンセプト住宅」という建築家未満で建売住宅以上の戸建住宅を丁寧に創り込んでいく事を選びました。
潜在需要のあるお客様に共感していただけるよう、エリアや購買層によって異なったコンセプトを打ち出し、それぞれのまちのデザインテイストまで使い分けていくのです。
関西では建売住宅のデザイナーブームというのが一時期あったのですが、デザイナーが主張し過ぎる住宅デザインで頑張っておられましたが、いまではどうでしょう?、主張の強いデザインにはブームがあるので当時のデザインは違和感があり、古ささえ感じます。
私は長く愛されるまちづくりをすべきと考える人間なので、あまり主張し過ぎないけど程良い主張があって全体が調和するようにデザインする事を心がけています。
数年経っても愛される戸建てコーポラティブハウスのようなまちづくりが、まちの資産価値をあげる事につながるからです。
話を戻して、建築デザイナーである私がどのようなマーケティングリサーチをしているのか…
①現地周辺を歩きまくる
周辺住民のみなさんがどのような日常生活をしているか、ぶらぶら散歩して、公園に行き、商店に入って買い物をしたりします。
いくつか場数を踏んでくると地域のスーパーの品揃えや価格帯、お買い物されるお客様を見ると大体エリア特性がわかるようになってきます。
当然建築デザイナーですから、計画地の朝、昼、夕、晩の景色を理解する事も合わせてします。
②周辺物件のリサーチ
これはマーケティング会社も行う項目ですが、私自身も別でデータを取りますし、周辺の販売価格帯やエリア嗜好を理解するために、お客様のフリをして周辺のモデルハウスを案内してもらう事が多々あります。
週末に行くことが多いのですが、各紙の新聞屋さんでチラシ付きの新聞も買い漁ります。
コンビニの新聞はチラシが入っていないので、新聞屋さんで買います。不動産や広告表現のエリア特性も理解を深める事ができます。
もちろん、住宅情報誌やネットのチェックもしますし、弊社スタッフの家に入ってる不動産広告を月曜日に持ってきてもらって業界のチェックは欠かさずやります。
③エリアの生活トレンドを探る
雑貨屋さんや家具屋さん、カフェなどに出向くのですが、そのエリアならではのトレンドがあるものです。
これはモデルハウスのインテリアコーディネートをする際にもとても役立ちます。
感度の高いお客様は小さな雑貨ひとつ見ただけで「あ、これはあそこの雑貨屋さんのものですね?」と反応してくださり、営業トークにも花が咲きます。
モデルハウスでお客様が長く滞在してくださるのは営業マンもとても喜ぶ事です。
④地域のポテンシャルを調べ尽くす
これは地域性からニーズを吸い上げるために、郷土史などを読み、大きな白地図を広げて地域や都市の軸線などを理解し、隠れたポテンシャルを見つけ出してコンセプトに反映します。
大体、以上の4つのマーケティング(行動)を行い、コンセプトデザインに反映させていきます。
①現地周辺を歩きまくる・②周辺物件のリサーチは、事業主と頭の中を同化させる事になり、③エリアの生活トレンドを探る・④地域のポテンシャルを調べ尽くすは、コンセプト作りに役立てる事で、不動産デベロッパーとしての「商品」、建築デザイナーとしての「作品」、お住まいになる方々や地域にとっての愛着ある「生活空間」をバランス良く調和させることにつながります。
これらの情報が入っていれば、クライアントである不動産デベロッパーや広告代理店と商品企画会議で議論する事が出来るますし、広告表現などについても助言する事ができます。
建築デザイナーであってもここまで根拠を持って組み立てなければ、不動産デベロッパーは勇気を持って事業化に踏み切れませし、私たちが掲げる「コンセプト住宅」に共感してくださるお客様にも伝わりませんので、商品企画の導入部分は私たちも妥協しないのです。
もちろん、事業主が割り出す販売価格帯に見合った商品とするために付加価値をどう付けていくのか、当然、デザインしながら建設コストとのバランスも取っていきます。
建築デザイナーがここまで踏み込んで商品企画する例は少ないと思いますが、マーケティングという根拠に深みを持たせる事が出来れば、不動産デベロッパーとしての「商品」と建築デザイナーとしての「作品」は共存していくのだろうと思います。
皆がハッピーになれる不動産プロジェクトがこの世に存在するのですから、バナナの叩き売りのような建売住宅とはおさらばしましょう!…(笑)
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